障害者相談支援専門員のための補装具・日常生活用具支給制度活用ガイド
導入
障害のある方の日常生活における自立と社会参加を支援するためには、身体機能の補完や生活上の困難を軽減する用具の活用が不可欠です。補装具費支給制度と日常生活用具給付等事業は、これら用具の取得を経済的に支援する重要な制度であり、相談支援専門員がクライアントのニーズに応じて適切に活用できるよう、正確な情報と深い理解が求められます。
この記事では、障害者相談支援専門員の方々が、これらの制度の全体像を把握し、クライアントへの説明や申請支援に役立てられるよう、制度の概要から具体的な利用手続き、実務上の注意点までを網羅的に解説します。制度改正情報や関連制度との連携についても触れ、日々の支援業務に資する情報を提供します。
制度・サービスの概要
障害のある方が日常生活を営む上で必要となる用具については、「補装具費支給制度」と「日常生活用具給付等事業」の二つの柱があります。
補装具費支給制度
- 正式名称: 補装具費支給制度
- 目的: 身体の欠損または損なわれた身体機能を補い、日常生活能力や職業能力を回復・向上させることを目的とした用具(補装具)の購入・修理にかかる費用を支給する制度です。障害のある方の自立と社会参加を促進します。
- 根拠法: 障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
- 創設背景と重要性: 障害のある方の尊厳を尊重し、社会との隔たりをなくす「ノーマライゼーション」の理念に基づき、身体機能の補完を通じてQOL(生活の質)の向上を図るため、長年にわたり重要な支援として位置づけられています。義肢や装具、車いすなどは、移動、コミュニケーション、学習など、基本的な生活活動を可能にする基盤となります。
日常生活用具給付等事業
- 正式名称: 日常生活用具給付等事業
- 目的: 障害のある方が、日常生活をより円滑に営むために必要となる用具(日常生活用具)の給付または貸与にかかる費用を助成する制度です。居宅における生活の便宜を図り、自立を支援します。
- 根拠法: 障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業の一環として、市町村が実施します。
- 創設背景と重要性: 補装具ではカバーしきれない、より生活に密着した特定の用具のニーズに対応するため、市町村が主体となって柔軟な支援を提供することを目的としています。各市町村の地域の実情に応じた品目選定が可能である点が特徴です。
対象者・利用条件
補装具費支給制度
- 対象者:
- 身体障害者手帳の交付を受けている方。
- 指定難病等により身体の機能に障害があると認められる方(障害者総合支援法の対象となる難病患者等)。
- 障害種別・等級: 身体の欠損または機能障害の内容により、対象となる補装具が異なります。特定の障害種別や等級が直接的な条件となるわけではなく、個々の障害の状況と用具の必要性に基づき判断されます。
- 年齢: 年齢制限はありません。
- 所得条件: 原則として世帯の所得に応じた利用者負担(1割負担)があります。ただし、世帯の所得状況に応じて月額上限額が設定されており、低所得世帯への配慮がなされています。
- 市町村民税非課税世帯:利用者負担は0円。
- 市町村民税課税世帯:所得に応じた月額上限額(通常37,200円)が設定されています。
- 対象とならないケース:
- 医療保険による給付対象となる用具(例:治療用装具で医師が治療の目的で作成を指示したもの)。
- 介護保険制度の福祉用具貸与・購入費、住宅改修費の対象となる用具(原則として介護保険が優先されます)。
- 専門的な知識を要する補装具(例:義肢、車いす、装具、補聴器)については、身体障害者更生相談所または指定医療機関の専門医による医学的判定が必要とされます。
- 例外規定: 災害や紛失等により、耐用年数経過前に再支給が必要となる場合があります。
日常生活用具給付等事業
- 対象者:
- 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方。
- 障害者総合支援法の対象となる難病患者等。
- 各市町村の判断により、特定の疾患や状態にある方も対象となる場合があります。
- 障害種別・等級: 市町村が定める品目リストにより、対象となる障害種別、等級、具体的な障害状況が細かく規定されています。
- 年齢: 市町村によって年齢制限や優先順位が設けられることがあります。
- 所得条件: 補装具費支給制度と同様に、世帯の所得に応じた利用者負担(1割負担)と月額上限額が設定されています。
- 対象とならないケース:
- 介護保険制度の福祉用具貸与・購入費、住宅改修費の対象となる用具(原則として介護保険が優先されます)。
- 特定疾患治療研究事業等、他の制度により支給される用具。
- 一般に普及している製品で代替可能なものや、装飾品とみなされるもの。
- 日常生活に必須と判断されないもの。
- 例外規定: 市町村の判断により、緊急性が高い場合や、品目リストにない用具でも個別の状況に応じて認められる場合がありますが、これは稀なケースです。
サービス内容・給付内容
補装具費支給制度
- 支給対象品目: 義肢(義手、義足)、装具、車いす、電動車いす、補聴器、盲人安全つえ、義眼、眼鏡(色付き眼鏡、遮光眼鏡)、座位保持装置、排便補助具、歩行器、その他移動補助用具、意思伝達装置など多岐にわたります。
- 給付内容: 原則として、購入または修理費用の1割を自己負担し、残りの9割が公費で支給されます。ただし、各品目には基準額が設定されており、基準額を超える部分については自己負担となる場合があります。
- 提供主体: 市町村(支給決定機関)。
- 利用量の上限: 各品目には耐用年数が定められており、原則として耐用年数期間中は再支給の対象となりません。ただし、障害状況の変化や修理不能の場合など、例外的に再支給が認められることがあります。
- 修理: 補装具が故障した場合も、同様の手続きで修理費用の支給を受けられます。
日常生活用具給付等事業
- 給付対象品目: 市町村が独自に定めた品目リストに基づきます。例として以下のようなものがあります。
- 介護・訓練支援用具: 特殊寝台、特殊マット、入浴補助用具、移動用リフトなど。
- 自立生活支援用具: ポータブルトイレ、ストーマ用装具、点字器、視覚障害者用音声時計など。
- 在宅療養等支援用具: 体位変換器、電気式たん吸引器など。
- 情報・意思疎通支援用具: 携帯用会話補助装置、点字ディスプレイ、拡大読書器など。
- 住宅改修費: 障害者向け住宅改修(段差解消、手すり設置など)にかかる費用の一部を助成。
- 給付内容: 原則として、購入または貸与費用の1割を自己負担し、残りの9割が公費で給付されます。各品目には基準額が設定されており、基準額を超える部分は自己負担です。
- 提供主体: 各市町村。
- 利用量の上限: 各品目には基準額と耐用年数が定められています。市町村によっては、1年度あたりの給付上限額を設定している場合もあります。
- 関連する他の制度との違いや連携:
- 介護保険制度: 65歳以上の方(または40歳以上で特定疾病に該当する方)が要介護・要支援認定を受けている場合、介護保険制度の福祉用具貸与・購入費や住宅改修費が優先されます。どちらの制度も利用可能な場合は、介護保険をまず検討するようクライアントに案内します。
- 医療保険制度: 治療用装具など、医療的な目的で医師が指示する用具は医療保険の対象となる場合があります。補装具費支給制度と混同しないよう注意が必要です。
利用手続き・申請方法
補装具費支給制度と日常生活用具給付等事業の申請手続きは、基本的な流れは共通していますが、それぞれに特有のステップや必要書類があります。
- 相談:
- まずは、市町村の障害福祉担当窓口または相談支援事業所に相談します。クライアントの障害状況、生活環境、必要な用具の種類や目的を伝え、どちらの制度が適切か、どのような用具が対象となるかを確認します。
- 相談支援専門員は、クライアントのニーズを詳細にアセスメントし、最適な用具選定のための情報提供や助言を行います。
- 申請:
- 市町村の障害福祉担当窓口で申請書を入手し、必要事項を記入します。
- 共通の必要書類:
- 申請書
- 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の写し
- 医師の診断書または意見書(用具の必要性を示すもの)
- 世帯全員の所得状況がわかる書類(住民税課税証明書など)
- 見積書(希望する用具の業者から取得)
- 補装具費支給制度に特有の書類:
- 更生相談所の判定が必要な場合、そのための書類(市町村から案内されます)。
- 日常生活用具給付等事業に特有の書類:
- 市町村によっては、利用状況報告書や同意書など、追加の書類を求める場合があります。
- 調査・判定:
- 補装具費支給制度:
- 申請内容に基づき、市町村が支給の要否を審査します。
- 義肢、装具、車いす、補聴器など専門性の高い補装具は、身体障害者更生相談所または指定医療機関の専門医による医学的判定が必要となります。この判定により、最適な補装具の種類、形式、構造が決定されます。
- 日常生活用具給付等事業:
- 市町村の担当者が、申請内容とクライアントの生活状況を訪問調査等で確認し、用具の必要性や妥当性を審査します。
- 補装具費支給制度:
- 支給決定・給付券(決定通知書)の発行:
- 支給が決定されると、市町村から「給付券」または「決定通知書」が交付されます。この書類には、支給決定された用具の品目、支給額、自己負担額などが記載されています。
- 用具の調達・支払い:
- 給付券を業者に提出し、用具を注文します。
- 原則として、用具の代金は市町村が業者に支払い、クライアントは自己負担額のみを業者に支払います(代理受領方式)。
- 一部の市町村では、クライアントが一旦全額を支払い、後で市町村に払い戻しを申請する償還払い方式を採用している場合もあります。事前に確認が必要です。
手続きの際の注意点・相談できる機関
- 申請前の購入: 原則として、申請・支給決定前の用具購入は給付の対象外となります。必ず事前に相談し、正式な手続きを踏むようにクライアントに案内してください。
- 見積書の取得: 複数の業者から見積もりを取得し、比較検討することは、適正価格で最適な用具を選ぶ上で重要です。
- 専門業者との連携: 特に補装具の場合、採型・採寸・適合調整など専門的な技術が必要となるため、信頼できる専門業者を選定することが重要です。
- 相談支援事業所: 相談支援専門員は、クライアントが制度を円滑に利用できるよう、情報提供、申請書類作成の支援、関係機関との調整、手続きの同行など、包括的なサポートを提供します。
- 市町村の障害福祉担当課: 制度の詳細、申請状況の確認、具体的な手続き方法について直接問い合わせが可能です。
利用上の注意点・最新情報
補装具費支給制度
- 定期的な点検と修理: 補装具は日常的に使用されるため、定期的な点検と必要に応じた修理が不可欠です。耐用年数が経過していなくても、機能維持のために修理費用の支給を申請できる場合があります。
- 耐用年数経過前の再支給: 補装具にはそれぞれ耐用年数が設定されていますが、障害状況の変化(成長、進行性の病気など)、または紛失・破損により修理不能となった場合は、耐用年数経過前でも再支給が認められることがあります。ただし、その必要性を客観的に示す診断書や意見書が必要です。
- 技術の進歩への対応: 補装具の技術は日々進歩しており、より高性能なものや身体に負担の少ないものが開発されています。クライアントのニーズに合わせて最新情報を収集し、適切な用具を検討することが重要です。
日常生活用具給付等事業
- 市町村ごとの運用差: 日常生活用具給付等事業は地域生活支援事業のため、市町村ごとに品目リスト、対象者の条件、給付基準額、審査基準などに違いがあります。必ずクライアントが居住する市町村の情報を確認してください。
- 品目リストの確認: 定期的に見直しが行われるため、最新の品目リストと要綱を確認することが重要です。クライアントのニーズに合致する用具がリストにない場合でも、類似品や代替案、あるいは他の制度の活用を検討します。
- 費用対効果の検討: 用具の選択にあたっては、単に機能だけでなく、費用対効果やクライアントの生活環境への適合性、メンテナンスの容易さなども考慮し、総合的な視点から検討を支援します。
制度改正と今後の見通し
- 難病患者等への対象拡大: 障害者総合支援法の対象となる難病の範囲は段階的に拡大されており、それに伴い補装具や日常生活用具の支給対象者も広がっています。常に最新の対象疾病リストを確認することが求められます。
- 利用者負担の見直し: 利用者負担については、国の方針や社会情勢に応じて見直しが行われる可能性があります。最新の負担割合や月額上限額について、厚生労働省や各自治体の情報を定期的に確認してください。
- デジタル化と情報提供の強化: 申請手続きのデジタル化や、制度に関する情報提供の充実が進められる可能性があります。
- 公式情報源:
- 厚生労働省のウェブサイト(「障害者の補装具費支給制度について」「地域生活支援事業について」などの関連ページ)
- 各自治体(市町村)の障害福祉担当部署のウェブサイト
まとめ
補装具費支給制度と日常生活用具給付等事業は、障害のある方が地域で自立した生活を送る上で欠かせない基盤となる支援制度です。相談支援専門員としては、これらの制度について深く理解し、クライアント一人ひとりのニーズと状況に合わせた適切な用具の選定、そして円滑な申請手続き支援を行うことが極めて重要です。
この記事が、制度の正確な理解を深め、実務における活用の一助となることを願っています。常に最新の情報を確認し、多角的な視点から支援を提供することで、クライアントの生活の質の向上に貢献していきましょう。