障害者相談支援専門員のための就労移行支援・就労継続支援活用ガイド
導入:就労系障害福祉サービス理解を深め、クライアントの「働く」を支援する
本記事は、障害者相談支援専門員である皆様が、クライアントの就労を支援する上で不可欠となる「就労移行支援」および「就労継続支援(A型・B型)」に関する知識を深め、実務に役立てていただくことを目的としています。これらのサービスは、障害のある方が社会参加し、自立した生活を送る上で非常に重要な役割を担います。
この記事を通じて、各サービスの概要から対象者、具体的なサービス内容、利用手続き、そして実務上の注意点まで、網羅的かつ正確な情報を提供いたします。複雑な制度を体系的に理解し、クライアントへの的確な情報提供やサービス等利用計画の作成に資する内容となるよう構成いたしました。
制度・サービスの概要
障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスは、障害のある方の「働きたい」という希望を実現し、安定した就労を支援するための多様な選択肢を提供します。
就労移行支援
- 正式名称: 就労移行支援事業
- 目的: 一般企業等への就労を希望する障害のある方に対し、就労に必要な知識及び能力の向上のための訓練、職場探し、職場定着のための支援を行います。
- 根拠法: 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)
就労継続支援A型
- 正式名称: 就労継続支援A型事業
- 目的: 通常の事業所に雇用されることが困難な障害のある方に対し、雇用契約に基づく就労の機会を提供するとともに、一般就労に必要な知識及び能力の向上を目的とした訓練を行います。原則として最低賃金以上の賃金が保障されます。
- 根拠法: 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)
就労継続支援B型
- 正式名称: 就労継続支援B型事業
- 目的: 通常の事業所に雇用されることが困難な障害のある方のうち、A型事業や一般企業等での就労が困難な方に対し、非雇用型で生産活動の機会を提供するとともに、その知識及び能力の向上に必要な訓練を行います。工賃が支払われます。
- 根拠法: 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)
対象者・利用条件
各サービスには、それぞれ異なる対象者と利用条件が定められています。
就労移行支援
- 対象者:
- 原則として18歳以上65歳未満の身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病等のある方。
- 一般企業等での就労を希望し、知識・能力の向上、職場開拓等の支援を必要とする方。
- 就労に必要な基礎的な体力や生活リズムが整っていることが望ましいとされていますが、個別の状況に応じて柔軟に対応されます。
- 利用期間: 原則2年間(24か月)です。市町村が必要と認めた場合に限り、最大12か月間の延長が可能です。延長の判断には、継続的な訓練の必要性や就労への具体的な見込み等が考慮されます。
- 対象とならないケース: 疾患の急性期にある方、医療機関での治療が優先される方など、訓練が困難と判断される場合。
就労継続支援A型
- 対象者:
- 原則として18歳以上65歳未満の身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病等のある方。
- 一般企業等での就労が困難であり、雇用契約に基づき継続的に就労することが可能な方。
- 具体的には、以下いずれかに該当する方です。
- 就労移行支援事業を利用したが、一般企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 特別支援学校を卒業して就労活動を行ったが、一般企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 就労経験のある方で、現在休職中または離職している方。
- 以上のいずれにも該当しないが、市町村が認めた方。
就労継続支援B型
- 対象者:
- 年齢制限はありません(18歳未満でも利用可能な場合があります)。身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病等のある方。
- 通常の事業所に雇用されることが困難であり、就労継続支援A型事業や一般企業等での就労も困難と判断される方。
- 具体的には、以下いずれかに該当する方です。
- 就労経験のある方で、年齢や体力面から一般企業等での就労が困難となった方。
- 就労移行支援事業を利用したが、一般企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 特別支援学校を卒業して就労活動を行ったが、一般企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 就労経験のない方で、継続的な就労が困難な方。
- 以上のいずれにも該当しないが、市町村が認めた方。
サービス内容・給付内容
各サービスは、障害のある方の就労に関する多様なニーズに対応するための具体的な内容を提供します。
就労移行支援
- サービス内容:
- 個別支援計画の作成: 利用者一人ひとりの能力、適性、希望に応じた個別の支援計画が作成されます。
- 就労に関する訓練: 作業訓練(模擬就労、軽作業など)、PCスキル、ビジネスマナー、コミュニケーションスキル、職業準備性向上のための訓練。
- 職場探し支援: ハローワークへの同行、求人情報の提供、履歴書作成支援、面接練習。
- 職場実習の機会提供: 企業での実習を通じて、実際の職場環境での経験を積む機会を提供。
- 職場定着支援: 就職後も、職場への定着を支援するため、相談支援や企業への働きかけを行います。最長6か月間、必要に応じて支援を継続します。
- 給付内容: サービス利用料の原則1割を利用者が負担しますが、世帯の所得に応じて負担上限月額が定められています。所得が低い場合は負担がありません。食事提供がある場合は、別途食費がかかることがあります。
就労継続支援A型
- サービス内容:
- 雇用契約に基づく就労: 事業所と雇用契約を結び、賃金が支払われます(最低賃金以上)。
- 生産活動: 事業所の業務内容に応じた作業(例: 事務補助、清掃、軽作業、農作業、IT関連作業など)に従事します。
- 一般就労に向けた支援: 必要に応じて、就労に必要な知識・能力の向上のための訓練や、一般企業への移行支援も行われます。
- 生活支援: 日常生活における相談援助など、生活全般のサポートも含まれる場合があります。
- 給付内容: サービス利用料は原則1割負担ですが、所得に応じて負担上限月額が設定されます。A型事業所は雇用契約を結ぶため、利用者は賃金を得ることが可能です。
就労継続支援B型
- サービス内容:
- 非雇用型での生産活動: 利用者と事業所との間に雇用契約は発生しません。生産活動(例: 軽作業、手芸品の制作、農作業、清掃など)に従事し、その成果に応じて工賃が支払われます。
- 体力・生活リズムの維持向上: 就労に向けた体力や生活リズムを整えるための支援。
- 能力向上訓練: 個々の能力に応じた作業指導や職業訓練。
- 社会参加の機会提供: 地域との交流活動など、社会参加の機会を提供します。
- 給付内容: サービス利用料は原則1割負担ですが、所得に応じて負担上限月額が設定されます。利用者は作業に従事した対価として工賃を受け取ります。工賃は事業所や作業内容によって異なり、最低賃金の保障はありません。
関連制度・サービスとの連携
これらの就労系サービスは、他の障害福祉サービスや地域の関係機関と密接に連携することで、より効果的な支援が実現します。例えば、就労移行支援の利用中に生活支援(居宅介護、グループホームなど)を併用したり、就労定着支援事業(2018年4月より創設)と連携して就労後の定着を支援したりすることが可能です。また、ハローワーク、地域障害者職業センター、就労支援センターなど、地域の就労支援機関との連携も重要です。
利用手続き・申請方法
就労系障害福祉サービスを利用するためには、以下の手続きを経て、市町村からサービス利用の支給決定を受ける必要があります。
- 相談・情報収集:
- まずは、お住まいの市町村の障害福祉担当窓口や、地域の相談支援事業所に相談します。
- 相談支援専門員が、利用者の状況や希望を丁寧に聞き取り、適切なサービスの情報提供や、サービス等利用計画作成のための支援を行います。
- 利用申請:
- 市町村の障害福祉担当窓口に、障害福祉サービスの利用を申請します。
- 必要書類: 申請書、障害者手帳(お持ちの場合)、医師の意見書(就労移行支援の場合に求められることがあります)など。
- アセスメント・認定調査:
- 市町村の職員または指定特定相談支援事業所の相談支援専門員が、申請者の心身の状況、生活環境、就労への希望などを把握するためのアセスメント(認定調査)を行います。
- この調査に基づき、障害支援区分の認定や、サービス利用の必要性が判断されます。
- サービス等利用計画案の作成:
- 指定特定相談支援事業所の相談支援専門員が、アセスメントの結果や本人の意向を踏まえ、就労系サービスと他のサービスを組み合わせた「サービス等利用計画案」を作成します。この計画案は、利用するサービスの種類、量、期間などを具体的に示したものです。
- ご自身で「セルフプラン」を作成することも可能ですが、専門員の支援を受けることが一般的です。
- 支給決定・受給者証の発行:
- 市町村は、サービス等利用計画案の内容や障害支援区分の認定結果に基づき、サービスの支給を決定します。
- 支給が決定されると、「障害福祉サービス受給者証」が発行されます。この受給者証には、利用できるサービスの種類、支給量、利用者負担上限月額などが記載されています。
- 事業所との契約:
- 受給者証を受け取った後、利用希望者は、サービス等利用計画に沿ってサービスを提供する事業所を選択し、直接利用契約を締結します。
- 見学や体験利用を通して、ご自身に合った事業所を見つけることが重要です。
- サービス利用開始:
- 契約締結後、サービスの利用が開始されます。
- サービス利用開始後も、相談支援専門員が定期的にモニタリングを行い、必要に応じてサービス等利用計画の見直しを行います。
利用上の注意点・最新情報
- 利用者負担の軽減: サービス利用料は原則1割負担ですが、所得に応じた負担上限月額が設定されています。特に、低所得世帯や市町村民税非課税世帯は、負担上限月額が0円となる場合があります。制度の変更や軽減措置については、常に最新の情報を確認し、クライアントに正確に伝えることが重要です。
- 利用期間の制約と目標設定: 就労移行支援には原則2年間という利用期間の制限があります。この期間内でいかに効果的に訓練を行い、目標達成に繋げるかが重要です。相談支援専門員は、クライアントが具体的な目標を設定し、計画的にサービスを利用できるよう支援する必要があります。
- 工賃・賃金の確保: 就労継続支援A型では最低賃金が保障されますが、就労継続支援B型では工賃が支払われるため、事業所によってその額は大きく異なります。クライアントが工賃の額だけで判断せず、サービス内容や訓練の質も考慮できるよう情報提供を心がけてください。
- 報酬改定等の情報把握: 障害福祉サービス報酬は、概ね3年に一度見直されます。報酬改定は、サービスの提供内容や事業所の運営にも影響を及ぼすため、厚生労働省の公式発表(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部ウェブサイトなど)を通じて、常に最新情報を把握し、サービス等利用計画に反映させていくことが求められます。
- 多機能型事業所の活用: 一つの事業所で就労移行支援と就労継続支援(A型またはB型)の両方、あるいは複数を提供する「多機能型事業所」も存在します。クライアントの状況変化に応じて柔軟にサービスを切り替えることが可能なため、こうした事業所の情報も押さえておくと良いでしょう。
まとめ
就労移行支援と就労継続支援(A型・B型)は、障害のある方がその能力に応じた形で社会参加し、自立した生活を送るための重要な支援制度です。障害者相談支援専門員として、これらの制度に関する深い理解は、クライアントへの質の高い支援を提供する上で不可欠です。
本記事で解説した各サービスの概要、対象者、内容、手続き、そして利用上の注意点を踏まえ、個々のクライアントのニーズに合わせた最適なサービス等利用計画を作成し、その「働く」を力強くサポートしていただければ幸いです。常に最新の情報を確認し、多角的な視点から支援を提供することで、クライアントの可能性を最大限に引き出すことに貢献できるでしょう。